炎上した「異世界転生者殺し」と許された「THE BOYS」の違い
「月刊ドラゴンエイジ」で6月9日から連載開始した「異世界転生者殺し」が第1回で連載中止になった件で、よく「なんでこれは炎上してTHE BOYSは許されるんだ?」っていう意見がちらほらtwitterなんかで見かけたので、これらの違いについて考えてみました。
「異世界転生者殺し‐チートスレイヤー‐」は、「賭ケグルイ」の河本ほむらさんが原作者となる、いわゆる「異世界転生モノ」のアンチテーゼとして生まれた作品。
「異世界転生モノ」は 現代日本人が死後に転生、または生存したまま中世ファンタジー世界に転移し、そこで大活躍(?)するという体系の物語。
人気のジャンルであるがゆえに多くの読者を抱える一方、同時にそのパターン化した体系を嫌う人がいるのも現実。
そこで生まれたのが、冒頭の「異世界転生者殺し」です。
通常の異世界転生モノであれば、転生者が主人公として特殊能力を得て、世界の危機を救ったり名をあげたりしますが、この作品では転生者が「特殊な能力を持った悪役」として描かれていました。
で、おそらく本来であれば特殊能力を持たない主人公が権謀術数を用いて転生者を倒していく、という話になっていたと思います。
これだけ聞くと確かに「THE BOYS」に似ているし、なかなか熱い展開になりそうな期待が持てますが…。
ちなみに「THE BOYS」は上記の異世界転生者殺しの悪役である「転生者」がそのまま「アメリカンスーパーヒーロー」に置き換わったような内容です。
では、何が問題になったのかというと、モチーフになった悪役の転生者が実在する異世界転生作品の主人公に酷似していたという点。
※twitterより引用
……いや、アカンやろ。
元ネタがハッキリ分かるというか隠そうとさえしていないものさえありますよ。
で、元ネタのキャラクターの性格などは無視して、悪逆な敵役として振る舞うわけです。
それもネット上のステレオタイプな「アンチ転生モノ」としてのネガティブなイメージそのままの性格で。
というわけで、この作品は炎上するべくして炎上し、連載1回で打ち切りという大記録を打ち立てたわけです。
で、ここでやっと「じゃあなぜ同じようなアンチ作品である『THE BOYS』は許されてるの?」って話になるんですが……(厳密にいうとTHE BOYSも批判自体は受けているそうですが、中止になるほどの影響はない模様)。
ついでにTHE BOYSの方も比較。
ホームランダー = スーパーマン
Aトレイン = フラッシュ
ザ・ディープ = アクアマン
クイーン・メイブ = ワンダーウーマン
こうして並べてみると寄せてきてるのが改めて分かりますね。
それでは何故彼らは許されたのか? ということについて語ると
①そもそも主人公サイドもクズ要素多い
主人公サイド(ヒーローの敵)も、ヒューイ以外は小悪党というか犯罪者そのものだったりします(ヒューイはただの小物だし)。
一方的な善VS悪の構図ではないため、スーパーヒーロー側の悪どさが際立っていない形になっています。
②「悪」と言っても、どこか小市民的な小狡さで、どこか庶民的
ホームランダー以外のキャラクターは、透明化能力で覗きをしたり、スキャンダルをもみ消したり……。
まぁ何か実際の社会でもそこらにいそうな小悪党、といった程度で、小物感が強くてフィクションとしてはそれほど憎むようなキャラじゃない印象です。
ホームランダーにしても邪悪というより家庭環境により歪んだサイコパスという雰囲気で、嫌うというより不気味なタイプ。
③元ネタがぼんやりしていてそのものズバリ、というほどではない
クイーンメイブはそのまんまですけれど、アメリカのヒーローってある程度似たキャラが多くて、元ネタは固定でコレ! みたいなのは少ないですよね。例えば、ザ・ディープなんかはメジャーなアクアマン以外にも、サブマリナーってヒーローにも似ていますし。
ホームランダーなんて、目から光線出さなければ「元ネタ誰?」ってなりますし。何せ全身タイツの超人なんてテンプレ過ぎてどれだけいるの?って話です。
④人気ヒーローの裏側にある「邪悪さ」ではなく、「小物さ」「弱さ」を描いている
②にも通じるところがあると思うんですが、正直これが一番大きいかなと。
そもそもこの作品て、ヒーローの悪さを中心に描いているんじゃなくて、スターの裏側にある汚さと、それに振り回されて思い悩む弱さにスポットが当たっていると思うんですよ。
表では高潔なホームランダーが、裏ではワガママいっぱいではあるものの会社の方針に逆らいきれず苛立ったり寂しがったり。
Aトレインはスキャンダルと自身のピークに追われ、焦って暴走し…。
そしてザ・ディープは落ち目で左遷され、苦悩の末にカルト宗教にハマる……。
いやぁ、もう愛すべき小物っぷり。
と、ちゃんと書き連ねてみると、「異世界転生憎し!なろう憎し!」でヘイト満載で書かれた「異世界転生者殺し」と、スーパースターであるアメリカンヒーローを庶民的に、おちょくる雰囲気で描いた「THE BOYS」ではまるで違うんですよね。
なので、「日本はパロディに厳しいから異世界転生者殺しは連載中止にされた!」っていう話は少し違うと思うんですよ。
何にせよリスペクトの無いパロディは嫌われて当然だし、それがアンチ目的で商業誌でやったなら炎上して当然でした。
パロディのご利用は計画的に。
無料でも文句を言う、という異常性
無料でも文句を言うべき、と主張する人間の価値観は永遠に理解できないだろうし、僕の考えも理解してもらえないだろう。
なので、このエントリーはそうした人たちでなく、無料のものに対して文句を言うことに違和感を持つ、一般的な道徳と価値観を持つ人向けの話となる。
まず、批評と文句は違う。
無料サービスに対して批評するのはアリだと思うが、文句を言うのはお門違いも甚だしい。
批評とは良いところを評価しつつ、改善点を提示する、ユーザからのサービスのような行為である。
間違っても感情的に暴言を放つ行為ではない。
そもそも、文句が出るシーンとはどんな時か。
それは『自分が損害を受けた場合』である。
商品を買ったり有料サービスを受け、それが支払った金額に見合わないものであれば、文句が出るのは当然。
お金という分かりやすい損失を受けているのだから。
(いわゆる基本無料・課金式のサービスに対して、課金ユーザが文句を言うのは至極真っ当な権利だと思う)
『無料サービスにも文句を言うべき』と主張する人間は、文句を言う根拠として、
『無料サービスでも、提供側は別の形で利益を得ているのだから文句を言ってもいい』
という、身勝手な理屈を展開する。
嫌儲かよ。稼いでたら叩いていいという考え方がもう異常。
たとえ無料サービスでも、運営は何らかの形で収入、利益を得る。
広告収入だったり、別の有料サービスへの導線だったり、人を集めて情報収集が目的だったり。
けど、それと利用者の損失とは無関係である。
嫌だったら止めればいい。金を払ってるわけではないのだから、失ったものは何もないのだ(繰り返すが課金ユーザは除く)。
……いや、ここで『時間を失っただろ!』とか『このサービスを利用する労力を費やした!』とか言われると、「あっ、ハイ」としか言い返せなくなる。
困ったことに筋は通っているから。筋だけは。クレーマーの考え方そのものだけど。
どちらにしても社会では関わりたくない人であることは同じ。
つまるところ、試供品やボランティアに文句をつけるクレーマーと同じようなものだ。
彼らは正当なことを言っているつもりで、その理不尽さに気づかない迷惑な存在であり、自分に甘く他人に厳しいだけの場合がほとんどである。
こうした悪意は、サービスの終了を早めてしまうし、一般利用者にとって損害を与えることになる。
実際にそうした例はいくつもあるのだ。
無料サービスに粘着するクレーマーは、残念ながらいなくならないし、声も大きい。
我々一般ユーザは、こうした害悪にサービスを潰されないよう、臆さず彼らに声を上げていきたいところだ。